あのスティーヴ・ディジョルジオを輩出したことでも知られるアメリカのスラッシュ/デス・メタル・バンド、Sadusが
17年ぶりのニュー・アルバムをリリース。ということで、ドラマーのジョン・アレンに話を聞いてみた。
ー 85年の結成時はどのような音楽性を目指していたのでしょう。
ジョン:そうだな、ちょうどスラッシュ・メタルの始まりの時期で、それがまだとてもユニークで新しい音楽だった頃。アイアン・メイデン、ジューダス・プリースト、ブラック・サバスをすべて混ぜ合わせたようなもの。俺たちベイエリアに住んでいた人間にとって、最初に聴いたアルバムというのは、たいていメタリカの1stだったんだ。だから当然メタリカに依るところは大きい。エクソダスも同じようなタイプのサウンドで、82年、83年頃だね。俺たちがやろうとしていたのは、アイアン・メイデン、ジューダス・プリースト、ブラック・サバスと、メタリカやエクソダスがやっていたものを混ぜ合わせたようなものだったな。
ー 当時私はSadusのファースト・アルバムをテープトレードを通じて入手しました。あの頃Sadusは世界最速のバンドの一つという印象があったのですが、あそこまでスピードアップした理由は何だったのですか。
ジョン:(笑)。面白い話さ。実は俺たちもテープトレードをやっていたのだけれど、当時そうやって入手したカセットの多くは、実際よりもスピードが速くなっているということがあっただろう(笑)。カセットの性能もあって、実際にアルバムを入手してみると、カセットよりも遅いじゃないかって。
ー ありましたね。
ジョン:だろう?それもあり、ドラマーとしては、他の誰よりもよりアグレッシヴにプレイしたいという欲望があってね。競争という言葉は使いたくないけれど、ああいうタイプの新しいアグレッシヴな音楽の世界においては、俺たちは他のバンドよりずっと若かったというのもあったからね。「誰よりも速くプレイしようぜ」みたいな感じがあったんだ。
ー 具体的にはどのようなバンドからの影響でスピードアップしたのですか。先ほどメタリカ、エクソダスの名前が挙がりましたが。
ジョン:そう、メタリカやエクソダス。それから初期のメガデス。当時は大手のレコード会社からはそういう音楽は何もリリースされていなくて、アンダーグラウンドのショウを見に行くしかなかった。そう、スレイヤー。彼らはLAのバンドだったけれど。テープトレードも大きな情報源だったな。アメリカ全土だけでなく、ヨーロッパにも同じような音楽好きがたくさんいて。いろんなバンドからインスピレーションを受けたよ。1つ2つだけではなく。それに、俺たちは70年代の音楽もよく聴いていた。レインボー、ブラック・サバス、ユーライア・ヒープ、モーターヘッド。さまざまなバンドから影響を受けたと言える。2-3ではなく、100以上のバンドから影響を受けたんだ。
ー その後バンドはテクニカルな方向性をとるようになりますが、これは何がきっかけだったのでしょう。
ジョン:俺とスティーヴ・ディジョルジオは学生時代からの親友で、たくさんのアルバムを貸し借りしていたのだけど、俺たちはどちらもラッシュの大ファンだった。ラッシュからの影響は大きかったよ。特に彼らのアグレッシヴな側面からのね。ダレンもラッシュが好きなんだ。3人とも似たような影響を受けていて、それがSadusのプログレッシヴなサウンドに現れているのだと思う。彼らのブレイクやストップのやり方。ドラムの叩き方とか。それにヴォーカルもハイトーンだろう?ラッシュからの影響は大きいと言えるね。
ー お手本とするドラマーは他にもいましたか。
ジョン:たくさんいる。デイヴ・ウェックルはよく聴いていたな。非常にプログレッシヴなジャズのドラマーさ。テリー・ボジオ、ジョン・ボーナムのようなヘヴィ・ヒッターも。それからデイヴ・ロンバード。彼はさほど年上ではないけれど、彼からの影響は大きい。アイアン・メイデンのクライヴ・バーからも大きな影響を受けた。ビル・ワードからもね。
ー まもなくニュー・アルバム『The Shadow Inside』がリリースになります。17年ぶりに新作を作ろうと思ったきっかけは何だったのですか。
ジョン:そう計画した訳ではないんだ。俺はテキサスに引っ越してそこに10年ほど住んで、そのせいでバンドの活動も停滞していたのだけれど、カリフォルニアに戻った。スティーヴ・ディジョルジオはテスタメントでプレイしているから、とてもとても忙しくて、だから俺とダレンで曲を書き始めた。ダレンはすでに多くのリフを書いていたよ。特にアルバムを作ろうと計画をした訳ではなく、やっていくうちに、こういう形になったということ。1曲、2曲、3曲とできていくうちに、「よし、このまま続けていこう」ってね。
ー 今回のアルバムにスティーヴは参加していないということですね。
ジョン:していない。
ー ではベースは誰が弾いているのですか。
ジョン:うーん、それはまだアナウンスしていないのだけど(笑)。とりあえず現時点では、俺とダレンで作ったアルバムとだけ言っておくよ。
ー 今回の作品は、過去のSadusのアルバムと比べ、どのような点が進化、変化していると言えるでしょう。
ジョン:うーん、長い間休んでいたからね。その分ハングリーになっていたと言える。色々とアイデアが湧き上がってきたよ。休むということも大切なことだと思う。毎年アルバムを出していると、どれも似たようなサウンドということになりかねないからね。それ自体は悪いことではないけれど、多様性が欲しければ、オフの時間も少々必要だろう。ともかく、とてもSadusらしいアルバムだよ。俺はずっとバンドのドラマーを務めている訳だし、ダレンもずっとギタリストでシンガーなのだから。とてもオールドスクールなやり方で作ったんだ。同じ部屋でデカい音を出して。違う街でコンピューターを通じてというやり方ではなく、実際にスタジオで。だから、エネルギーが感じられると思う。このニュー・アルバムが持つ激しさは、そういうところに起因しているんじゃないかな。10年間離れていたこともあって、エネルギーが溜まっていて、再びそのドアを開けた感じさ。
ー タイトルの『The Shadow Inside』というのは何を表現しているのでしょう。
ジョン:影というのは誰の中にも存在する。人は時にそれを沈黙させておかなくてはならないし、時にその存在を受け入れなくてはならない。誰の中にも邪悪な存在、コントロールできない力というものがあるんだ。しかしその力を何とかコントロールし、自分のためになるよう利用する。自分自身のバランスを保つため、ポジティヴな人間であるためにね。
ー 歌詞はどのようなところからインスパイアされているのですか。
ジョン:この作品は17年頃から作り始めたのかな。歌詞の内容は、制作中に世界で起こっていたことと関係していると言える。パンデミックがあって、みんな病気になって、世界はとても大きな影響を受けたよね。コンセプトアルバムではないけれど、一貫したテーマがある。
ー アートワークはトラヴィス・スミスが手がけています。
ジョン:彼には『Elements of Anger』の時からいつもアートワークを頼んでいるから、彼のスタイルもよくわかっている。自分の中にある「Shadow」という常に自分をコントロールしようとする、しかしながら自分がコントロールしなくてはいけない力というアイデアがあって、押し引き、陰陽、黒と白のような、バランスを見つけるというコンセプトで描いてもらったんだ。トラヴィスは素晴らしいアーティストで、スケッチの段階で素晴らしいものになるのがわかっていたからね。とても仕上がりに満足しているよ。
ー 前作に続き、ホアン・ウルテガがエンジニアを務めています。
ジョン:彼はプログレッシヴなエンジニアで、つまり常に自分の過去の仕事を上回ろうとする人物なんだ。地元のエンジニアだから、遠くまでドライヴしなくても良いし、とても仲も良い。彼と一緒にやると、とても楽しいし、やりやすいんだよ。全力を尽くしてくれることがわかっているし。
ー 今後ライヴなどもやっていく予定でしょうか。
ジョン:その予定だよ。長い間行けていない国がたくさんあるからね。もちろんパンデミック以前とは、色々と様相が変わっているだろうけれど。
ー では最後に日本のファンへのメッセージをお願いいたします。
ジョン:ぜひ日本に行きたいね。できれば来年にでも。日本のみんながニュー・アルバムを楽しんでくれることを期待するよ。
文 川嶋未来